コンテンツにスキップする
Subscriber Only

「007」顔負けのポンド急落劇、個人投資家は悲喜こもごも

  • デイトレーダーのような投資家は追随のポンド売り-外為どっとコム
  • ハードブレグジット懸念後退し、ポンドの下落は一服

日本時間7日午前8時すぎ、映画「007」シリーズでビルから飛び降りるジェームス・ボンド顔負けのアクション劇が外国為替市場で起きた。英ポンドが一瞬にして31年ぶりの安値に急落したのだ。FX(外国為替証拠金取引)を手掛ける個人投資家も巻き込まれたが、スイス・フランやトルコ・リラなど数多くの急落相場の経験がある程度効を奏したようだ。

  ブルームバーグ端末で確認できた安値は、1ポンド=1.1841ドル。わずか数分前までは1.26ドル台前半で推移していたポンドが1985年3月以来の水準を付けた。ポンド・円も1ポンド=131円台から7%以上急落し、一時2012年8月以来となる121円台に突入した。

New "Casino Royale" James Bond Is Unveiled

英俳優ダニエル・クレイグ演じるジェームス・ボンド

Photo by Greg Williams/Eon Productions via Getty Images

  急落の原因について、市場関係者からは、コンピューターを駆使する注文が下げの引き金となり、早朝という時間帯で流動性の薄さが値動きを増幅させたとの解説や、ヒューマンエラーや「タイプミス」の可能性が指摘されたが、確認はできていない。ただ、短期的な取引をする投資家が売り買いにいそしんだようだ。

                          

  外為どっとコム総研の神田卓也取締役調査部長は、「あれだけの急落だったので特にポンド・円で巻き込まれた投資家は少なくなかったが、下がったらポンド買いという向きもいたし、いわゆるデイトレーダーのような投資家は追随のポンド売りをしたりと結構売買は交錯していた」と振り返る。

  ポンドは英国の国民投票でEU離脱支持派の勝利が判明した6月24日にも暴落し、対円では一時11%値下がりした。その後は2012年以来の低水準ながらも小康状態となっていたが、今月2日のメイ英首相の演説をきっかけにEU離脱が「ハードブレグジット(強硬な離脱)」になるとの観測が浮上。ポンドの一段の売り圧力となった。 

Pound's Flash Crash Has Traders Blaming Algorithms For Selling Frenzy

トレーディングルームに置かれた英米の国旗

Photographer: Chris Ratcliffe/Bloomberg

  神田氏によると、7日のポンド急落時の相場では、ポンド・円の130円付近で個人投資家のストップが付いた一方、125円台などでは買い指し値が付いたケースもあり、「悲喜こもごも」だった。「いわゆる歴史的安値圏に近づいてきているので買いも入りやすいし、材料面からは思惑的な売りが入りやすい」と指摘した。

  マネースクウェア・ジャパン営業本部法人部長の工藤隆氏は、比較的長期運用の投資家が多い同社では、今回のポンド急落時でポンド買い注文の約定の方が多かったと話した。

FX投資家はポンド・円買い越し

  東京金融取引所が運営するFX取引「くりっく365」が毎週火曜に発表している週間為替売買動向によると、急落の3日前の10月4日時点でポンド・円の売り建玉は16万1804枚、買い建玉は17万949枚、ネットでは9145枚の買い越しだった。英国民投票前の6月初旬には買い越しが31万枚まであった。9月には一時売り越しに転じたが、同月中旬以降は再び買い越しとなっていた。

  今年はスイスフランや南アフリカランド、トルコリラなど急落が何度もあったが、外為どっとコムの神田氏によると、個人投資家の間では持ち高をこまめに管理する動きが徹底されつつある。「特にポンドについては、身構えていた部分があったので、そこまで大きな痛手を負ったという投資家はあまり多くなかったようだ」と指摘。その上で、「8,9月とポンドの取引は低迷していたが、10月に入りまた盛り上がる兆しが出てきている。むしろポンドが急落したことにより、ドル・円などの取引を手控えるような動きも一部で見られる」と言う。

  ブルームバーグ・データによると、ポンド・円の今年の値幅は178円39銭から121円61銭と50円以上で、リーマンショックに見舞われた08年以来の大きさとなっている。ポンド・円の1カ月物の予想変動率は足元で7月下旬以来の高水準まで上昇している。
   
  13日午前のポンド・円は127円20銭前後で推移している。12日にはメイ英首相が議会に譲歩し、EU離脱プロセスめぐる採決を認めたことを受け、ハードブレグジット懸念が後退し、ポンドの下落は一服した。

  外為オンライン情報サービス室の佐藤正和顧問は、ポンドはリスクが高く、そもそもポジションを持っている投資家が少なく、今回の急落に巻き込まれた一部顧客の損失も6月のブレグジットショック時に比べれば軽度だったと説明。「セミナーでは、確かにボラティリティが高くてうまくいけばいいが、それ以上にリスクが高いという話をしている。間違いなくうちではポンド取引を避ける傾向が強い」と語った。  

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE