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日中「鉄道戦争」、インドに売り込め新幹線-きょう安倍・モディ会談

  • 7路線の最初の計画は日本に軍配、残りも狙う安倍首相
  • 技術と価格、品質のみで判断なら中国が受注-中国のアナリスト

インドで高速鉄道計画を推進するモディ首相が来日した。アジア各地で日本と中国が鉄道インフラ受注をめぐりしのぎを削る中、日本はインドとの関係強化を図り、さらなる新幹線技術の海外展開の足場を固める機会と捉える。

  安倍晋三首相はモディ首相と11日午後に会談予定で、高速鉄道関連も重要な議題だ。2015年末にインドを訪問した安倍首相はモディ首相と会談。インドは7路線、総延長約4600キロの高速鉄道計画の最初のプロジェクト、ムンバイーアーメダバード間約500キロに日本の新幹線方式を採用することを決めた。総事業費の見込みは9800億ルピー(約1兆5700億円)。これを足場に安倍首相は残る計画の獲得を狙う。

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安倍首相とモディ首相(2015年12月)

Photographer: Prakash Singh/AFP via Getty Images

  「日中の鉄道戦争はアジアでの影響力をめぐる競い合いであり、収益の次元を超えた重要性がある」と、テンプル大学日本校のアジア研究学科、ジェフ・キングストン教授は指摘する。「モディ首相は日中を競わせ、インドに何が有益かをみたいのだろうが、戦略地政学的にモディ政権は米国と日本寄りになっている」という。

シンガポール-マレーシア間も

  インドの最初の高速鉄道計画は日本が受注したが、インドネシアのジャカルターバンドン間では昨年、日本は中国に敗れた。インドの残りの計画のほかに、シンガポールとマレーシアの首都間約350キロを約1時間半で結ぶ高速鉄道計画でも日中両国は相まみえる。

  日本の鉄道や原発などインフラシステムの海外受注額は10年に約10兆円だったが、14年には約19兆円に拡大。政府が20年の目標に掲げる約30兆円達成について、インフラ輸出の実務面を統括する和泉洋人首相補佐官はインタビューで、底上げが期待できる分野は「鉄道関連、特に高速鉄道だ」と述べ、首相のトップセールスなどをてこに目標達成は十分可能との認識を示す。

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ニューデリー郊外で列車に登ったり、つかまったりする乗客

Photographer: Money Sharma/AFP via Getty Images

  和泉氏は日本の高速鉄道の強みは「安全性と定時性」で、初期投資はかさむものの故障が少なく、「総合的に考えると日本製が優れている」と話す。また、高速鉄道の特殊性について「規格が大切」と指摘。「1つの国で1つの高速鉄道を導入すれば、その規格が支配的になる」と述べ、複数規格が乱立することは現実的ではないという。特にインドでは1つの運営会社が全ての高速鉄道計画をまとめているため「最初の計画を日本が獲得した意義は大きい」と述べた。

中国の強み

  中国は広大な国土に世界最大の高速鉄道網を持ち、鉄道車両メーカーの中国中車(CRRC)を国営銀行など国家を挙げて支援している。上海重陽投資の陳蘇明アナリストは、中国は厳しい気象条件の場所や困難な条件の地形でも鉄道を敷設することができると指摘する。

  「もし判断が技術と価格、品質のみを基に下されるなら、CRRCが受注を勝ち取るだろう」と陳氏は話す。「しかし海外市場では政治的な要素が入り込み、中国国外での受注獲得の機会を複雑なものにしている」と述べた。

人材育成、生産技術の移転

  和泉補佐官は、モディ首相が掲げる国内製造業の奨励策「メーク・イン・インディア」プログラムを政府として尊重すると述べ、高速鉄道の運行に必要な人材育成で協力し、車両生産も段階的にインドに移行させるという。「日本側のメーカーの協力とインド企業の努力が必要で、時間のかかる大変なプロジェクトになる」と述べた。

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日立の鉄道の展示を見る男性(ニューデリー)

Photographer: Chandan Khanna/AFP via Getty Images

  国内で東北新幹線などを運行するJR東日本の冨田哲郎社長は8日の会見で、インドの高速鉄道について「運行やメンテナンスのノウハウなどを伝えるための人材育成や技術継承を考えていきたい」と前向きな姿勢を示した。欧米でも鉄道車両を製造している日立製作所の東原敏昭社長は10月の会見で「アジアでの鉄道車両製造の現地化は検討すべき課題」と述べた。来日中のモディ首相は12日、安倍首相の案内で兵庫県にある川崎重工業の新幹線工場を視察する予定だ。
  
  ジオジットBNPパリバ・ファイナンシャル・サービシズのガウラング・シャー氏は、インドにとって
日本や中国との関係でバランスを取ることより、安全性と耐久性が重要だと指摘する。「受注すべきは信用と技術、実績のある国だ」と述べた。

タイ、ベトナム、台湾

  アジアの高速鉄道では、日本とタイが8月、バンコク-チェンマイ間の約700キロの計画で日本の新幹線方式を導入に向け、鉄道協力に関する覚書に署名。ベトナムではハノイーホーチミン間の計画で新幹線方式を採用することを閣議決定したが、10年の国会で費用面が問題視され継続審議となり凍結したまま。台湾では07年に新幹線の車両と運行技術を日本国外で初めて導入し開業した台湾高速鉄路が、経営難により政府の救済支援を経て、10月に再建を目指し上場した。

  和泉補佐官はアジアのインフラ需要は「10年間で1000兆円規模」で、年間2兆円の政府開発援助で全てを賄うことはできないという。「アジア開発銀行、世界銀行、アジアインフラ投資銀行など皆が協力してやれればいい。ただアドバンスな技術、特に高速鉄道分野では、日本が積極的に協力するべきだ」と語った。

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