日銀:長期国債購入額の「めど」近い将来削除も、現在80兆円-関係者
日高正裕、野原良明-
「めど」は金融調節方針の対象ではなく、補助的な位置付け-関係者
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変更する際は執行部が判断して事後的に政策委員会に報告-関係者
日本銀行は新たに導入した長短金利操作付き量的・質的金融緩和の下で、「めど」として示している長期国債の買い入れ額について、近い将来、金融調節方針(ディレクティブ)から削除することを検討している。複数の関係者への取材で分かった。
複数の関係者によると、「めど」である長期国債の買い入れ額は、変更するのに政策委員会の採決が必要な金融調節方針の対象ではなく、補助的な位置付けにすぎないため、変更する際は執行部が金融調節オペレーションの実績などから判断して、事後的に政策委員会に対して報告すればよいという。
操作目標をマネーの量から金利に切り替えたことから、量は金利操作の結果として決まる副次的なものという見方が日銀内で主流になりつつあるが、複数の関係者によると、長期国債の買い入れ額を縮小すれば期待インフレに悪影響が及ぶ恐れがあるとして、引き続き量の多寡を重視する向きも存在している。
日銀は9月21日の金融政策決定会合で、マネーの量を操作目標としてきた異次元緩和から、長期と短期の金利を操作目標とする枠組みに変更。これまで主な操作目標の1つだった長期国債については、年間保有残高の増加額を「おおむね現状程度の買い入れペース(約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する」よう改めた。
80兆円
原田泰審議委員は12日の会見で、経済にポジティブなことが起これば日銀は長期金利を0%程度にとどめようとするので、長期国債の買い入れ額は「80兆円よりも上に行く」一方で、ネガティブなショックが加われば「景気が悪くなっているのだから、取りあえず80兆円程度を買っておいて金利の低下を許容する」と指摘。80兆円というマネーの量そのものにこだわる姿勢を示した。
日銀は9月会合で、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の物価目標を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続することも表明した。黒田東彦総裁は21日の衆院財務金融委員会で、将来、長期国債を年間80兆円増のペースで買わなくても良くなる「可能性は高い」と指摘。70、60兆円になってもマネタリーベースは増えると述べ、買い入れペースが今後大きく減ることはあり得るとの見方を示した。
複数の関係者によると、日銀内では、新たに0%程度のターゲットを設定した長期金利について、市場のボラティリティ(変動幅)が大きい時は、そうでない時と比べて上下により大きな変動を容認する方針が浮上していることも明らかになっている。
既に減額は始まっている
金融市場では、日銀が約80兆円をめどとしている長期国債の買い入れをいつ減額するのかに注目が集まっている。エコノミスト43人を対象に21-25日に実施した調査では、来年1月会合までに減額するとの予想は7人と少数派にとどまった。一方で、日銀は9月末に公表した「当面の長期国債等の買い入れの運営」で10月中の買い入れ額を減らしており、実質的に既に減額が始まっているとの指摘もある。
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BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストもそうした見方をする1人で、長期国債買い入れ額は「もはや操作目標ではなく、長期金利ターゲットを維持するために必要な額を買い入れることになっている。結果的には、徐々に減額されることになる」と予想する。
河野氏はさらに、9月会合の声明文では「長期国債の買い入れ額に急激な変化をもたらさないとのメッセージを明確にするため、年間80兆円とのガイドラインを示した」とみられるものの、今後の声明文では「80兆円という文言そのものがなくなり、買い入れペースについては『おおむね現状程度』との表現のみにとどめられるのではないか」としている。