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2億台に迫る監視カメラ-中国ハイテク監視社会、強権国家を手助けか

  • 習政権、20年までに中国全土を網羅するカメラネットワークを導入
  • 世界中の民主統治の未来に対してかなり厄介な暗示との指摘も
Illustration: Stephanie Davidson/Bloomberg Bloomberg
Illustration: Stephanie Davidson/Bloomberg Bloomberg Bloomberg

中国政府の支援を得て天津市で監視カメラメーカーを築き上げた戴林氏はビリオネアになった。戴氏が天地偉業技術を始めた1994年当時、中国では屋外カメラは珍しかった。今は監視カメラだらけだ。人口世界一の中国がプライバシーや人権を巡る懸念を招くほどのハイテク監視国家になったことで戴氏のような起業家が大富豪入りしたわけだが、関連企業に資金を投じる世界中の投資家には難しい問題を突き付けている。

Big Brother Billionaires

Four Chinese surveillance tycoons are worth a combined $12.1 billion

Source: Bloomberg Billionaires Index as of Feb. 20, 2019; company filings and statements

  ブルームバーグ・ビリオネア指数によれば、中国政府が主要な顧客か投資家となっている監視関連企業で富を得た戴氏ら少なくとも4人の資産は総額で120億ドル(約1兆3300億円)を突破している。

  彼らの繁栄が浮き彫りにするのは、中国国民14億人の監視を後押しする習近平国家主席による取り組みの規模だ。IHSマークイットによれば、中国では2016年時点で街角や建造物、公共スペースに約1億7600万台のビデオ監視カメラが設置されている。米国は5000万台と比較にならない。

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天津の路上監視カメラ

写真家:ブレイクシュミット/ブルームバーグ

  習政権は17年、国内の治安関連に推計1840億ドルを投じた。20年までに中国全土を網羅するカメラネットワークを導入し、交通違反からビデオゲームの好みに至るあらゆる個人情報を追跡する「社会信用システム」も整備する。つまり天津であれ別の都市であれ、中国本土内で監視されずに移動することは難しくなる状況が迫っているということだ。

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顔認識テクノロジーのデモンストレーション(天地偉業技術の天津本社で)

写真家:ブレイクシュミット/ブルームバーグ

  政府の監視プログラムを支えているのは、天地偉業などの監視に焦点を絞った企業だけではない。アリババ・グループ・ホールディング中国平安保険(集団)テンセント・ホールディングス(騰訊)などさまざまな業態の企業が果たす役割も一段と重要度が増している。

  目を凝らせば、中国でイノベーティブとされる企業のほぼ全てが国家の監視体制と結び付いており、そのうち何社かは米民間企業従業員向けの確定拠出年金制度401(k)を含めた世界的な投資ポートフォリオに欠かせない銘柄となっている。

Monitors display a video showing facial recognition software in use at the headquarters of the artificial intelligence company Megvii, in Beijing.

  中国の監視活動は信頼醸成や治安向上のほか、人工知能(AI)などの分野で同国を世界的に優位にさせるのに役立つとして支持する見方もあるが、著名投資家のジョージ・ソロス氏ら批判的な向きは習政権が市民監視を危険水域まで高めるテクノロジーの悪用を行っていると指摘する。新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒弾圧が報じられる中で、ここ数カ月間そうした懸念は強まるばかりだ。

  天地偉業など監視カメラメーカーが海外進出するのに伴い、中国の監視産業がアフリカから中南米に至る国々で政府による市民の自由抑制に手を貸す可能性があるとの懸念もある。また、米国が華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)を厳しく検証しているように、中国製の監視機器が中国政府のスパイ活動に使われる公算が大きいとの恐れも広がる。華為傘下のハイシリコンは監視カメラを機能させる半導体の大手サプライヤーだ。

High Technology Stops Gaokao Cheating In China

重慶での大学入試中に会場を監視するため使用されていたシステム(2018年6月)

写真家:ゲッティイメージズによるVCG

  ワシントンのシンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)のエルサ・カニア非常勤上級研究員は「社会管理・運営という目的でデータをてこのように利用する中国政府のアプローチは、世界中の民主統治の未来を含め、かなり厄介な暗示を含んだ形で国家が強制する能力を支える可能性がある」と指摘。「顔認識などのAIアプリケーションを輸出している企業の多くを監視のために利用することは可能で、つまり抑圧に使われることになり得る」と語る。

  こうした懸念には根拠がないと中国側は繰り返し主張している。世界経済フォーラム(WEF)がスイスのダボスで1月に開催した年次総会でソロス氏が中国の監視プログラムに批判的なスピーチをすると、中国外務省の華春瑩報道官は「反論するにも値しない」と一蹴。華為の創業者である任正非最高経営責任者(CEO)は同社が中国政府のスパイ活動を手助けしている事実はないとした。

Inside the Vast Police State at the Heart of China's Belt and Road

新疆ウイグル自治区カシュガルのモスクの近くに設置されている防犯カメラ

ソース:ブルームバーグ

  天地偉業が天津で展開している監視システムは交通規則を無視して道路を横断する歩行者を特定し、その人物の顔と名前を道路脇のディスプレーに映し出す。同社は氏の資産や中国の監視システムを取り巻くプライバシーの問題についてコメントを控えた。

  天地偉業の本社には最近、アフリカ南部の産油国アンゴラの大統領も訪れた。非政府組織(NGO)のフリーダム・ハウスによる世界的な調査では、市民の自由度が最低クラスの国だ。アンゴラより評価の低い国はわずかしかないが、中国はそのうちの一つだ。

SenseTime, World's Most Valuable AI Startup, Takes China Tactics Abroad

センスタイム社の通行人・通行車両認識システム

Photographer: Gilles Sabrie/Bloomberg

原題:Big Brother Billionaires Get Rich as China Watches Everyone(抜粋)

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