中国が敷いた新たな「レッドライン」-香港駐在のジャーナリスト追放
David Tweed-
香港政府は活動家への場所提供も安全保障への脅威と見なしている
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「香港基本法」23条に基づく言論統制権限立法化が最終ゴール
香港で外国人ジャーナリストの査証(ビザ)更新が拒否された。香港独立を唱える政治組織「香港民族党」を創建した陳浩天氏を講演に招いた香港外国記者会(FCC)の幹部ビクター・マレット氏に対し異例の措置が講じられたことは、香港での言論統制を強める中国当局の新たな動きとして捉えられている。
中国の特別行政区である香港では4年前、民主化を求める「オキュパイ・セントラル(占領中環)」運動のデモ活動が広がったが、香港政府は現在、独立を主張する活動家やそうした運動に活動の場を与えるジャーナリストも安全保障への脅威と見なしているもようだ。
香港の行政当局に言論や抗議活動、海外団体の活動を制限する権限を付与する法律の制定が最終的なゴールとの見方は、親中派あるいは中国に批判的な向きにかかわらず共通だ。
憲法に相当する「香港基本法」の23条はこうした法律の制定を義務付けており、その法制化を求める声は約50万人の抗議活動で香港政府が法律制定を断念した2003年以来、最も強くなっている。
香港基本法23条 |
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香港特別行政区は反逆と離脱、扇動、中央人民政府の転覆、または国家機密の盗難を禁止する法律を制定すべきであり、外国の政治組織や団体が行政区内で政治活動を行うことを禁止し、行政区内の政治組織や団体が外国の政治組織や団体との関係を確立することも禁じる。 |
外国人特派員で構成するFCCは8月、民族党の陳党首を講演に招いたが、中国国務院香港・マカオ事務弁公室の張暁明主任は「国家安全保障を守る上で不適切」だとこれを批判。査証更新を拒否された英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のマレット氏はこの時、FCC会長代行を務めていた。香港政府は9月、民族党に活動禁止を命じた。
香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は10月9日、陳氏の講演とマレット氏の査証更新拒否を結び付ける見方を「全くの臆測」だと断じた。
だが経済面での台頭に加え、欧米で混乱が続く中で習近平国家主席率いる中国政府が、英国の植民地時代には保証されていた香港における言論の自由や司法の独立、資本主義に基づく市場へのコミットメントを弱めているとの懸念は強まっている。
米英両政府のみならず、香港に地域本部を置く1400社近い多国籍企業を代表する複数の団体がマレット氏の査証更新拒否についての説明を要求。ハント英外相は9日、「非常に懸念」しており、「政治的動機」に基づくものだと結論せざるを得ないとの認識を示した。香港の米国商業会議所は8日、「香港における報道の自由を抑制するいかなる取り組みも金融・貿易の主要な中心地としての香港の競争力を損ねる可能性がある」とするコメントを出した。
中国外務省の香港公署は6日の声明で、香港政府による査証の取り扱いを中国政府は強く支持すると明言。「外国には干渉する権限は一切ない」と突っぱねた。
原題:With Journalist’s Ouster, China Draws New Red Line for Hong Kong(抜粋)