黒田日銀総裁:2%実現前から緩和緩めようとは全く考えていない
日高正裕、藤岡徹-
金融政策は8対1で現状維持-片岡委員は5会合連続で反対
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事前調査はエコノミスト全員が金融政策の現状維持を予想
日本銀行の黒田東彦総裁は9日の金融政策決定会合後の記者会見で、長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みについて「物価2%が達成される前に変えるとか、緩和の程度を緩めることは全く考えていない」と述べ、現在の緩和を粘り強く進める考えを明確にした。黒田総裁は国会で再任される見通し。
黒田総裁は2019年度ごろに2%目標を達成する可能性が高いとしながらも、「ダウンサイドリスクがあるので、十分慎重に状況を見て、金融政策を運営していく」と表明。その上で、物価安定の目標に向けたモメンタム(勢い)が維持されなければ、「当然追加緩和ということを検討する」と語った。
会合では、現行の金融調節方針の維持を8対1の賛成多数で決定。誘導目標である長期金利(10年物国債金利)を「0%程度」、短期金利(日銀当座預金の一部に適用する政策金利)を「マイナス0.1%」に据え置いた。長期国債買い入れ(保有残高の年間増加額)のめどである「約80兆円」も維持。指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)の買い入れ方針にも変更はなかった。
一方で、片岡剛士審議委員は5会合連続で反対した。18年度中の目標達成を掲げ、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう長期国債の買い入れを行うことが適当と主張。物価が2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとし、達成時期が後ずれする場合は追加緩和を講じることが適当と表明した。
日銀は発表文で、景気が「緩やかに拡大している」との判断を据え置いた。海外経済は「総じてみれば着実な成長が続いている」として、前回1月の「総じてみれば緩やかな成長」から修正。住宅投資は「弱含んで推移している」とし、前回の「横ばい圏内の動き」から引き下げた。
大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストは電話取材で、「政策に関しては今回だけではなく、しばらくは現状維持というのがコンセンサス。この先は、体制が変わって新しい風がどう反映されるかが注目だ」とした上で、「政策は少なくとも今年は現状維持とみている」と予想した。
正副総裁は同じ方向を
任期満了を控えた現執行部にとって、今回は最後の決定会合となった。政府は16日、黒田総裁の続投と中曽宏、岩田規久男両副総裁の後任に雨宮正佳理事と若田部昌澄早稲田大学教授を充てる人事を国会に提示。衆参両院で所信聴取が行われた。4月の次回会合は新体制の下で迎える。
市場が注目するのは片岡氏と同様、追加緩和に踏み込んだ発言を続けるリフレ派の若田部氏の言動だ。5日の衆院の所信聴取では「理論的には金融政策には限界がない」とした上で、時期尚早な政策転換を避け、「必要なら追加緩和を提案する」との姿勢を示した。
黒田総裁は執行部内での意見の相違の可能性について会見で、「総裁と副総裁は同じ決定に参加する、同じ方向に向いていることが望ましい」としながらも、「法律は違った意見、違った決定に参加することを妨げない」と語った。
市場の関心は4月以降に
エコノミストに行った調査では全員が金融政策運営方針の現状維持を予想していた。市場の関心はすでに4月以降の政策運営に移っている。物価上昇の勢いに欠ける中、早期の正常化観測も後退している。調査でも年内に引き締めに向かうと回答したのは全体の27%と前回調査(47%)から減少した。
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1月の生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI)は前年比0.9%上昇、生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIは0.4%上昇にとどまる。日銀は4月会合で20年度までの見通しを示し、「19年度ごろ」としている2%達成時期を改めて精査する。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは「しばらく政策は動かせない」とみる。黒田総裁が正常化を進めたくても「コアコアCPIが0%台前半では難しい」と指摘。若田部氏などリフレ派、鈴木委員に代表される正常化推進派、徐々に出口への地ならしを進めたい黒田総裁や雨宮氏と、政策委員会は「三分の様相となり、にらみ合いが続く」と予想している。
会合結果の発表前は1ドル=106円70銭前後で取引されていたドル円相場は発表後も同水準で推移している。決定会合の「主な意見」は19日、「議事要旨」は5月7日に公表する。