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喜べない失業率ゼロ%台、高齢化先進県の島根

  • 全国平均2.5%に対し島根は2期連続で0.6%、1997年以来過去最低
  • 「時間を追うごとに全国に広がる」とNTTデータ経営研・山本氏
Pedestrians and cyclists cross a road in Matsue, Shimane Prefecture.

Pedestrians and cyclists cross a road in Matsue, Shimane Prefecture.

Photographer: Kiyoshi Ota

島根県の完全失業率が他県を引き離し、唯一のゼロ%台と全国最低水準を記録している。本来ならば失業者の少ない望ましい状況だが、人口減少で労働供給力の伸びしろが少ない一方、高齢化で介護需要が増えたという地方の悩みの裏返しでもある。

  総務省が参考指標として5月に公表した都道府県別結果によると、1-3月の島根県の完全失業率は0.6%と統計を開始した1997年以来、過去最低となった。全国平均は2.5%だった。昨年10-12月も0.6%に下方修正され、4期連続で全国最低だった。結果は標本規模が小さく全国に比べ精度が確保できないモデル推計のため、同省は利用には注意が必要としている。

  NTTデータ経営研究所の山本謙三会長は、総務省のデータに誤差があったとしても「人手不足は大都市よりも島根など地方の方がはるかに深刻だ」と指摘。島根はもともと若者が少なく、高齢化の進行で働き手が減っている一方で、「介護需要は高まっており、賄えなくなる恐れもある」と述べ、高齢化先進県の島根で起こった現象は「時間を追うごとに全国に広がっていく」との見方を示した。

島根県の失業率

平均を大きく下回り全国最低

総務省:モデル推計による都道府県別結果

毎月公表される全国データとは異なる

  4月の有効求人倍率(全国1.59倍)でも、各地域の労働需給の実態をより正確に反映する就業地別の集計では島根が1.79倍と東京の1.51倍を上回る。

  失業率低下には供給と需要両方の要因がある。供給面では、若年層の県外流出や高齢者の引退で労働力人口が急速に減っている。2015年の国勢調査によると、島根県の労働力人口は35万3201人で、前回の10年調査と比較して1万1300人減少した。

  女性の労働参加率はもともと高く、新たな働き手が生まれる余地も少ない。15年調査に基づく厚生労働省の集計では、子育て世代(25歳-44歳)の女性の労働力率は85.3%と全国で最も高い。

生産性

  需要面でも高齢化の影響が出ている。総務省の人口推計(17年10月現在)で島根の85歳以上の人口比率(全国平均4.3%)は7%と全国最高、75歳以上(同13.8%)も18.2%と全国2番目だ。島根労働局によると、17年度の医療・福祉産業は製造業やサービス業を上回る最大の求人数で、前年比7.3%増加した。

  ハローワーク求人情報によると、島根の介護福祉士には6日現在で453件の求人がある。特別養護老人ホーム「万田の郷」(出雲市)が募集する介護職員の月給は13万8180円から17万1286円。業務には食事や入浴、排泄の介助を含む。

  生産性の低さも失業率低下の一因だ。日本銀行の大山慎介松江支店長は、人や企業の集積度合いが低く交通網も未整備で、大都市に比べ「生産性が低くなる条件が多い」と語る。企業は賃金を上げられないため若者は県外に流出し、人口密度の低下でさらに生産性が下がるという悪循環に陥りやすい。

  地方から大都市に労働力が移れば日本経済全体の生産性は高まるが、大山氏は「そうすると若者がどんどん流出してしまうのが当然になってしまう。それが本当に良いことなのか考え始めている」と地方特有の悩みを明かす。

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