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黒田日銀総裁が引き続き本命、オッズは伸び悩み-次期総裁予想調査

日本銀行の黒田東彦総裁が次期総裁候補のエコノミスト予想で引き続き本命視されているものの、オッズ(予想確率)はやや伸び悩んでいる。金融政策は来年4月の任期満了まで現状維持が続くとの見方が強い中、安倍晋三首相が誰を選ぶのかに市場の関心が集まっている。

  黒田総裁は先月の講演で、行き過ぎた低金利が及ぼすリスクに言及し、一段の金融緩和がもたらす副作用に配慮を示した。7日の講演では、金融システム安定のために「できることは何でもやる」とも発言。かつての2%物価目標達成のために「できることは何でもやる」といった緩和一辺倒の姿勢はすっかり影をひそめている。

  7日の講演を傍聴したSMBCフレンド証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは8日付のリポートで、黒田総裁がこうした発言をするとは「夢にも思わなかった」とした上で、「続投意志がないように感じられた」という。73歳の総裁に配慮し、用意された椅子に座っての講演だったとも指摘した。

  黒田総裁は就任間もない2013年4月、2年で2%の物価目標の実現を表明し、量的・質的金融緩和を導入。16年1月にはマイナス金利、同年9月には長短金利操作を採用した。積極的な緩和姿勢は他の追随を許さないが、物価上昇の歩みは遅く、物価目標達成時期の先送りは6回に及ぶ。

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候補者たち

黒田東彦:現職

  「遅過ぎて小さ過ぎ」という従来の日銀のイメージを覆し、積極的な緩和姿勢に転換した。最近では、度重なる緩和策が市場機能を損なっているとの批判や出口の困難さを指摘する声も増えている。それでも、黒田総裁が安倍首相の経済政策の強力な担い手であったことは事実で、首相も「全幅の信頼」を置いていると述べている。

  前アジア開発銀行(ADB)総裁で、元財務官の黒田総裁はミステリーや歴史小説の愛読者だ。前任者らと異なり、にこやかで明るい。白川方明前日銀総裁が政策の副作用にたびたび言及したのと対照的に、2%物価目標の達成が遠のく中でも常に政策の効果を強調する。再任されれば、次の一手に注目が集まりそうだ。

中曽宏:金融市場の専門家

  現副総裁で、金融市場や金融システムの専門家として金融危機に対応したことで知られる。異次元緩和から混乱なく出口に向かうことが次期総裁の大きな任務になるとの見方がある中、有力な候補者と目されている。

  一部の日銀ウオッチャーの間では、黒田総裁の積極的な緩和政策と歩調を合わせるのは難しいとの見方もあったが、杞憂(きゆう)に終わった。黒田総裁の提案には全て賛成票を投じており、政策委員会と執行部の橋渡し役を果たしてきた。趣味は鉄道。任期は来年3月まで。

伊藤隆敏:物価目標の主唱者

  黒田総裁と親しい間柄で、副財務官としてともに働いた1999年に物価目標の重要性を訴え、黒田氏に影響を与えた。伊藤氏は5月のインタビューで、長短金利操作の支持を表明。労働市場の逼迫(ひっぱく)により物価は上昇率を高めると指摘した。

  米コロンビア大学大学院の教授として、国内に加えローレンス・サマーズ元米財務長官やグレン・ハバード同大経営大学院学長ら世界的な経済学者とも交友がある。バイオリンが趣味で、カーネギーホールやメトロポリタン歌劇場に足しげく通う。

雨宮正佳:ミスター日銀

  日銀生え抜きでミスター日銀とも評される。企画担当が長く、現在の緩和政策の枠組み作りを主導してきた。主義主張にとらわれない柔軟さと新たな手法を積極的に取り入れる姿勢が黒田総裁の下でうまくはまった。

  意見が大きく分かれる経済論争の中でも巧みに現実的な選択肢を提示する手腕は政治家や財務省関係者の間でも評価が高い。ピアノが趣味で、クラシックに関する知識は玄人はだし。引退後は、ある旋律がどうして美しく聞こえるのか、旋律の高低や長さを定量的に分析する新たな分野に取り組もうと考えている。

本田悦朗:アベノミクスのご意見番

  安倍首相とは30年以上に及ぶ付き合い。アベノミクスの金融政策アドバイザーを務めてきた。13年の黒田総裁の選任でも大きな役割を果たしたと言われている。本田氏は現在、駐スイス大使で、11月のインタビューでは、総裁就任の申し出があった場合は「命を懸ける」と前向きな姿勢を示した。

  14年の消費増税は景気後退につながり失敗だったというのが持論。19年10月に予定されている再増税にも否定的だ。黒田総裁は増税を支持した。本田氏は次期総裁は「増税を主張するような人は適切ではない」との見方を示している。

岩田一政:日本を代表するエコノミスト

  元日銀副総裁の岩田氏は内閣府で政策統括官を務めた日本を代表するエコノミスト。副総裁時代は07年2月の利上げに反対票を投じ、市場を驚かせた。急激な円高に悩まされた11年には外債購入を提案し、議論を巻き起こした。

  08年に退任した岩田氏は、日銀の現在の政策に対して批判的で、昨年12月には副作用を指摘するとともに、長期国債の買い入れが17年夏に限界に達すると警告した。黒田総裁は8月のインタビューで、日銀は国債市場の40%を購入したが、まだ60%残っていると指摘した。

森信親:金融庁長官

  森金融庁長官は国内金融機関に対する歯に衣(きぬ)着せぬ注文を連発していることで知られている。人口減少とゼロ金利により金融機関の収益が圧迫される中、地域金融機関の合従連衡の必要を説いている。

  安倍政権の中枢、特に菅義偉官房長官と近いことが潜在的な総裁候補との見方につながっている。政権が信頼を置いていることは、金融庁長官として3期目を任されたことでも証明済み。黒田総裁の緩和策も支持している。

中尾武彦:元財務官

  黒田総裁と同じようなキャリアをたどっているのが中尾氏。黒田氏の後任としてADB総裁に就任する前は財務官だった。10年、11年の円高局面では円売りドル買い介入を主導した。

  中尾氏とブレイナード米連邦準備制度理事会(FRB)理事は財務次官時代にともに働いた仲だ。ハンバーグから刺し身まで料理を愛し、クラシック音楽ファンでもある。

(調査方法)
回答者は黒田総裁が18年4月8日に任期満了となった後、最も有望と思われる候補者を3人選んだ。3人のうち最も有望だった候補者に3点、次の候補者に2点、最後の候補者に1点を割り振った。それぞれの候補者の得点を、仮に全ての回答者が最も有望と答えた場合の得点で割り、100をかけて最終的なスコアを算出した。12月11-14日の調査に44人のエコノミストが回答した。

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